人形

さて、今宵お楽しみいただくのは哀れな人形のお話。


彼女の名前?

そんなものどうでもいいでしょう

彼女は捨てられ、拾われ、また捨てられを繰り返す人形。

ほらまた捨てられてしまったようですよ。


でもあなただってそうでしょう?

壊れたモノなんてだれも持っていたくない。

最初、みんな興味を持つのです。

彼女は人形。

綺麗なモノですから。

でも、手に取ると分かる。

中身が腐っていることに。


彼女は言います。

「もうすぐ自分は終わるのか」と。

「果物は腐る直前が一番おいしいんでしょ?」と。

みんな満足してくれる。

みんな愛でてくれる。

一瞬だけですが。

その『一瞬』のために彼女はいるです。

その『一瞬』がいつか『ずっと』になる日を待ってるのですよ。


でも。

そんな日来ないことは彼女が一番よく分かっている。

なぜなら、その前に彼女は腐り堕ちてしまう。

まっすぐ、深い闇の中に堕ちてしまう。

だから、彼女はもう諦めている。

誰も、彼女の願いを適えることは出来ない。

誰も、彼女を助け出すことは出来ない。



じゃあどうしてこんな話をするのかって?

簡単ですよ。

これが彼女と私の約束だからです。

誰かが彼女に興味を示した時、彼女の話をする。

誰かに言わないと、

誰かに知ってもらわないと、

本当に壊れてしまった時、

本当に腐りきってしまった時、

自分では気付かないでしょう?

自分では死ねないでしょう?



私?

私は語り部。

彼女をどうこうする権利も義務もない。



さぁどうぞ。




「さぁ、お客様、始めましょう。

 哀れな人形のダンスを。

 貴方はいつまで夢を見せてくれる?」



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