クリスマス
赤い塔が立っている。都会の光の中でもここはよく目立つ。
空気の澄む冬にこのてっぺんに登るのが私は好きだった。
ここから眺める下界は星の花畑みたいだからだ。
冬は街がイルミネーションでいつも以上に輝く。
この星の下に楽しそうな、嬉しそうな人達がいるんだと思うと私は嬉しくなる。
今日はクリスマスイブ、イエスキリストの誕生を祝う日。
でもこの街の人間のうち何人がそれを祝っているのだろう。
多くの人間は家族や恋人とパーティをしたりしているのだろう。
子供達はサンタクロースのプレゼントを楽しみにしながら眠るのだろう。
この世界に神などいらないのかも知れない。
世界に平和をもたらす訳でもなく、飢餓や病気に苦しむ人々をたすける訳でもない。
こんな事を私が考えても仕方ないことだと言うことは分かっている。
私は神の使いでこの世界に住む人々を見て神に報告するのが役目。
それをどうするのかは私の領域ではない。
「それでも…」
この位なら許されるだろう。
私はそっと呪文を唱えた。
呪文を唱え終わったと同時に空から白い雪が降ってきた。
「メリークリスマス」
私に使える数少ない魔法。
この雪は積もらないけれどイルミネーションを、この聖夜を彩る位は出来るだろう。
赤い塔、東京のシンボルであろう、東京タワーから飛び立った。
どうか今夜だけでもみんなが幸せであるように祈りながら。