「犯人が捕まったぞ」
俺が大実態を犯したあの事件から数年後のある日。
上司が俺を呼び出してそういった。

一瞬耳を疑ったが、見せられた写真は確かに俺と一緒にいた3人だった。

「どういうことだ?」
俺は罰則官に上告していない。
つまり俺の事件はなかったことになってるはずなんだ。
「天狗どもが騒いでる事件知ってるか?」
「……なんだそれ?」
上司が言うにはある死神が監禁され、殺された事件があるのだという。
死亡者が出たら罰則官も動かざるおえない。その動きをどこからか嗅ぎ付けた天狗どもが色々書き立てて騒いでいるらしい。

「で、なんでそんなこと教えるんだ?」
天狗の情報力でも犯人の顔なんか分かる訳もないし、俺のところに天狗が来ないということは俺の事件は明るみに出てないと言うことだ。

上司はニヤリと笑う。
そのタイミングで1人の罰則官が現れた。
「初めまして。月華さんですね。私こういうものです」
そういって差し出された名刺には結構上役の役職名が書かれていた。
「お話を伺いたくて参りました」
「拒否権は…なさそうだな」
溜息をついて俺はそいつに向きなおった。
「話せば連中の罪は重くなるんだろうな?」
「さぁ。私達は彼らに適切な罰を与えるのが仕事ですから」
「じゃあ俺にメリットはないな…」
「…しかし、ご期待には添えられると思いますよ?貴女の件があるのとないのでは罪の重さも違うでしょうから」
…つまり重い裁きにしたければ話せ、ということか。
「いいだろう。知ってることは全部話してやるよ」

それから俺はおぞましいあの事件を話し始めた。
数年前のことで曖昧な部分もあったが、相手もプロ。
こっちの記憶がうまく引き出されているのを感じた。

「これで全部だ」
気が付くとほぼ丸二日話していた。
「お疲れ様でした」
分厚い紙の束(俺の話を記した紙だ)を数えて相手は満足そうだった。
「こっちの気分は最悪だがな」
「これで貴女の事件も終わりますよ。今はつらいかもしれませんが、これでもう囚われなくていいんです」
「あぁ、そうかよ」
嫌味に笑顔で返されるとなぁ…ムカつく。
「でも、そうかもな」
もう囚われなくて良いと言われてなんだかほっとしたのも事実だった。
「じゃあな」
俺は深々と頭を下げる相手を尻目に帰路に就いた。



あの事件で失ったものは多すぎる。
でも大切なものも確かに残ってる。
命。
友人。
居場所。
それだけでいいとしよう。
いつまでもそこで止まっているわけにもいかないしな。
『勝つまで負けない』
が俺のモットーだから。
だからまだ俺は負けられない。



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