俺は知らなかった。
朝日がこんなに綺麗だなんてことを。
始まりは一羽の鴉だった。
といってもこいつはそこらへんにいるカラスとは違う。
霊界からの使者。
まあ、人間界で言うところのメールとか手紙みたいなものだ。
内容は至極面白そうだった。
マスターに適当に嘘をついて久しぶりに霊界へ足を踏み入れた。
霊界の入り口には一人の男が立っていた。彼は案内人兼、仕事仲間だと自己紹介した。
俺はその男の言うままに霊界の奥へと進んでいった。
それから数日は待機という事で男と2人で他愛もない話ばかりしていた。そして、これまた仲間だと名乗る女が来てから事態は徐々におかしくなって行った。
まず、力の源である翼が封印されたのだ。2人は敵の攻撃だと言い、俺もそうだと思ってる。
そして、様々な精神攻撃が俺めがけ飛んできて(と2人は言っていた)俺は精神を病んでいった。
2人は暴走しそうになる俺を力ずくで止めてくれていたらしい。
ちなみに俺はその辺りの記憶があまりないが、出来ることが減っていったことだけは覚えている。
行動範囲の制限から食事、睡眠あらゆることを危険だからと制限された。
それでも俺は、2人の下から去ろうとしなかった。
今、考えると不思議だが、多分自分に来ている攻撃の矛先が2人に向くのが嫌だったんだろうと思う。
ある時、男が言った。
「俺達だけじゃ駄目だ。お前らの仲間に力を送ってもらおう」と。
俺は地上にいる仲間に声をかけた。霊界にいる上司にも。
ただならぬ感じ(だったらしい)に、皆は口をそろえて「そこから帰って来い」と言った。
上司や仲間の一部は
「力は貸せない」
というものもいた。
当然だ。
事情を知らない俺は説明できるわけもなく、ただ、力を送ってくれと言うしかなかったんだから。
「力が集まれば帰る。帰ったらこのカリは返す」
そう言って力を集めた。
集まった力を男に渡すと、
「後は俺が何とかする。これ以上は危ない。お前達は逃げろ」
そう言って俺の翼の封印を緩めると姿を消した。
俺と女はそこにいるわけには行かず、解散した。
ボロボロになった俺は上司の所に行くわけにも行かず、マスターのところに帰るしかなかった。
喫茶店に着いたのは朝日がちょうど昇る頃で、ずっと見ていなかった朝日に涙があふれた。
もう振り絞るかのような力でチャイムを押すとマスターがあわてて出てきて俺はそこで意識を失った。
目覚めると俺はマスターのベットの中だった。
ちょうどバイトの女の子が着替えを持ってきてくれたところで俺は彼女に手伝ってもらって着替えた。
体中に残る傷や打撲痕、痣、身体もひどい状態だったが精神はもっとやばかったらしい。
眠っている間も泣いたり、謝ったり、ずっとうなされたりしていたらしい。
後日、俺のところに上司から呼び出しが来た。
そして知る。
電話していない知り合いまでこのことを知っていてみんなが心配してくれたこと。
そして俺は後悔した。
安易に行ったこと。
みんなに連絡したこと。
自分のとった行動すべてを。
俺は知らなかった。
自分は独りじゃなかったことを。
大切なものはもうこの手に入っていたんだということを。
そして自分は凄く幸せだという事を。