一人の少女がいた。
少し不思議な力を持つ少女だった。
彼女は癒し手だった。
彼女は人の心を癒す代償としてある感情が欠落していた。
『愛』という感情が。
ある占い師が彼女に言った。
「貴方は『死』。死と再生を司る者。貴方のもとに多くの人がやってくるでしょう。でも、彼らは皆、離れていくでしょう」
彼女は「そうか…」と思っただけだった。
愛の分からない彼女にはそれがどれだけ哀しい事か分からなかったのだ。
そして、それは、今までと何も変わらない。
彼女にとって日常のことだったから。
数年が経っても、色々な者が彼女のもとにやって来たが、彼女を最終的に選ぶものはいなかった。
それでも彼女は哀しくなかった。
それが当たり前だったから。
ある時、彼女のもとに一人の男がやってきた。
その頃、彼女は人々を癒すことに疲れきっていた。
付け込む者。
利用し騙す者。
蔑む者。
色々な悪意が彼女の心を蝕んでいた。
死のうと何度も考えたが、その度にとめるものが現れ、希望を少しだけ与えた。
だから、彼女は癒そうとすることだけはやめなかった。
それしか希望を与えてくれた者に答える術が、生きる糧が彼女にはなかったから。
男は彼女に私をあずけこう言った。
「近い将来、貴方を、貴方だけを見てくれる人間が現れる。
だからそれまでどうか希望を捨てず生きて」
彼女には実感がわかないようだった。
「いまさら…」
そう思ったが、男の気持ちが嬉しかったために口を噤んだ。
男は私に言った。
「彼女を頼む」
私は頷いた。
男も私も彼女に癒され、彼女を苦しみから解き放ちたいという思いは一緒だったから。
彼女はまだ気がつかない。
自分の周りに愛があふれていること。
彼女が徐々に変わり『死』ではなくなってきていること。
だから、私は彼女のそばで彼女が気がつくまで待っていることにした。
いつか現れる人間を。
彼女と一緒に。
願うは、それまで彼女が自分を捨てずにいられること。
闇はすぐに近くにいるのだから。