いし
「ッ…」
出かかった言葉を飲み込む。
これは駄目だ。
そう反射的に思うからだ。
それはもう本能のようなモノで、どうして駄目なのかとかはよく分からない。
ただ、これを言ってはいけないと思うのだ。
それは石を呑むのに似ている。
それは消化されることなく体の中に溜まっていって、時折鈍い痛みとともにごろごろと音を立てる。
吐き出すことも出来ず、ただ溜まっていく一方なのに、毎日のように、生まれる新しいいし。
それをむりやり体の中に押し込む。
いつも、いっそ喉が破けてしまえばいいのにと思う。
そうすれば、この声がなくなってしまえばこの苦痛から逃れられる。
石を腹に詰め込まれた狼が池に落ちて死ぬ童話はなんだっただろうか。
その狼のように私も溺れ死んだり出来ないだろうか。
こんなに重いのに、こんなにたくさん入っているのに、溺れる気配すら見せない。
いっそ重みで臓器がつぶれたりしないだろうか。
そうすれば、助かることもないのに。
人に会うのが億劫になってくる。
人に会えば、口を開けばそこから出てくるのは言葉で、また多くのいしを呑まなくてはならない。
それも、分からないように上手く。
私は上手くやれているだろうか。
言葉を飲んでいるのを知られたら、そこに生まれるのは不信。
だから、元から何もないように言葉が出かかる前に飲まなくてはならない。
それは、出かかったものを飲むよりずっと辛いのに。
そうやって死ぬまでにいくつのいしを呑まなくてはいけないんだろう。
そんなものを抱えていつまで笑っていなくてはならないんだろう。
こんなもの何の役にも立たないのに、ただ苦しいだけなのに。
人はそれを自制心とか、優しさとか言うけれどそんな綺麗なモノじゃないと思う。
そんな綺麗なモノで人は、私は出来ていない。
私にあるのは恐怖だけだ。
嫌われたくない、拒絶されたくない。
ただそれだけ。
その一方で思っている。
このいしの存在を誰か気が付いてくれないかと。
そんな事しているのかと、馬鹿みたいだと、誰か言ってくれないだろうかと。
この思いも飲み込まなくては。
ああ、いつまで飲み込み続けるだろか。