不意打ち
「今日暇?」
寝起きにかかってきた電話は彼からの物だった。
「暇だけどどうしたの?」
「良かった……」
その言葉のすぐ後にチャイムが鳴って彼の言葉をかき消した。
「ごめん、誰か来たみたい。また後でかけ直すね」
電話を切って、慌てて扉を開けると其処にいたのは、スーツ姿の彼その人だった。
「どうしたの!?」
「久しぶりに会いたくなってさ、迷惑だった?」
「ううん。でも仕事は?」
「ちょっと抜けてきた」
「えっ!?良いの?」
「あんまり長くいられないけどお昼位なら一緒に食べれるよ。だから早く着替えておいでよ」
私はその時になってまだパジャマだったことを思い出した。
一気に顔が真っ赤になった私をみて彼はくすりと笑うと、
「外で待ってるよ」
「笑うなー!!」
私の声は扉に遮られてどこまで彼に届いただろう。
でも、会いに来てくれるなんてとても嬉しい。
私はいそいそと支度を整えた。
「おまたせ」
「じゃあ行こうか」
「うん」
楽しい時間はあっという間に過ぎて、別れの時はすぐにやってきた。
「今日は忙しいのにありがとう、楽しかった」
「こっちこそ。喜んで貰えて嬉しいよ」
私は今度いつ会えるのか尋ねる代わりに背伸びをして彼の額に軽く口付けた。
「じゃあ、またね」
「あっ、うん。また」
真っ赤な顔の二人はそのまま別れた。
彼が忙しいのは充分過ぎるほど知っているつもりだ。
でも会いに来てくれた。
それだけで、その気持ちを考えるだけで私の顔は嬉しさでにやけてしまう。
今度は仕事帰りの彼の所に会いに行ってみようか。
そしたらどんな顔をするだろう。
会いに来たと言ったら彼は照れた表情で笑ったりするだろうか。