この魔界で長をやるのは大変だ。
仕事が大変というより、精神的な面が。
そもそも、人間が魔界に住むという事は前例がないらしい。
それは世界全体が放っている瘴気(魔物にとっては空気のようなものなのだが)が
人の心を蝕み発狂に追い込むかららしい。
ちなみに私はギリギリのところで持ちこたえている。
何故ギリギリかというと何度も心を蝕まれることがあるからだ。
つい先日も…
「ルシファー、私を…殺してくれ」
「だめだ」
「何故だ!?私は勇者だったんだぞ!お前の仲間をたくさん殺した罪人だ!!」
「それがどうした」
「罪人がその世界の王だぞ!はっ!?笑えんな!
そのことが狂ってる、狂ってる王に支配されてこの世界は可哀相だな!こりゃ傑作だ!!」
「もう止めろ」
「止めろ?お前だってそう思ってるんだろう?こんな奴死んでしまえばいいと!!」
「止めろ!アウラ、俺の目を見ろ」
肩を痛いほど掴まれ目と目があう。
「アウラ。お前は俺の、この魔界の王だ。それ以上でもそれ以下でもない。過去なぞ関係ない。しっかりしろ、アウラ」
「……そうだな。私はこの世界の王、アウラ。こんなことで、瘴気(こんなもの)にくわれてたまるか」
「その意気だ。そうでなければ俺の王ではない」
「ありがとう」
いつまで正気を保っていられるか分からない。
でも、お前がいてくれれば大丈夫な気がするから。
どうかお願いだ。
何度だって私の名前を呼んでくれ。
そうすれば私はいつだって戻ってこれるから。