貴方を想う(Side-D)
地球には元々闇しかなかった。
俺は世界が変わっていくのを一人で眺めていた。
雨が止み大地が出来た頃、俺は始めて俺以外の存在を見た。
彼は眩いものを身にまとい俺を西の端へと追いやった。
己の天下だった世界に突如現れた者に俺は怒りを覚えるわけでもなく、ただ見とれていた。
その美しさに、その神々しさに。
しかし、大地の両端にいる時しか、その姿を認めることの出来ない俺達が言葉を交わすことは出来ない。
その前に俺には声なんてものが存在しないのだが。
夜の主たる俺の声は風や大地、ひいては生きとし生ける者達にまで影響を及ぼしてしまう。
彼もきっと同じ理由で声を封じられているだろう。
地上では彼を天使と呼ぶらしい、そして俺を悪魔と。
光と闇、天使と悪魔。
どこまでも俺達は相容れない存在らしい。
それが妙に笑いを誘った。
万が一相容れる存在であったとしてもそれは何の救いにもならないだろうが。
彼が俺に興味を持つなんてことがありえるだろうか。
醜くいびつな翼。彼のように光をまとい人々に温もりを与えることも出来ない嫌われ者の自分を。
・・・でも、もしかしたら彼は、彼ならばわかってくれるかも知れない。
一人の寂しさを、彼の存在、自分以外に自分と同じ職についている者がいることの心強さを。
もし彼がわかってくれなくても、俺のことに気付いてさえいなくても俺は言いたかった。知ってほしかった。
それだけを願ってそっと言霊を置いた。
【貴方は一人じゃない】
返事などいらない。彼が俺の言葉に気付いてくれれば、俺の言葉が彼の励みになれば、それで俺は満足だ。
そう想いながら俺は眠りについた。