文明の利器
この携帯という物はどうしてこうもいろいろなボタンがついているのか。
というより、人間はどうしてこうも細々とした物を使いたがるのか。
「俺以外に教えるなよ」
これを渡しながらあやつはそういっていたが、そんなことしない。
連絡なら使い魔をやればいいだけのことだし、話があるなら会いにいけば良い。
こんなもの必要ない。
よって、これがけたたましい音を発するのは、あの男から連絡が来る時がほとんどだ。
というより、あの男しかこの番号を知らないはずなのだが、たまに画面に番号の羅列が出るときがある。
戯れにとってみると
「間違えました」
とか、
「今○○のPRしてるんですけど、××って雑誌読んでます?」
とかいろいろなことを言ってくる。
どうしてこんな電話がかかってくるのかとあやつに聞いたことがある。
するとやつは苦虫を噛み潰したような顔で
「そういうのは取らなくて良い。ここに俺の名前が出る時以外は放って置けば良いから」
と逆に怒られる始末だった。
せっかくあるのだから使えるようになりたいと思うのだが、誰かに聞くのは癪に障る。
かといって渡されたのはこれと充電器というものだけで調べようにも自分の持っている本にこれの使い方を書いた本はない。
「今度やつにでも聞いてみるか」
本音を言えばあの男も使い魔が使えればいいのにと思う。
そうでなくても動物や植物の言葉かわかれば、伝言を頼めるのに。
こんな機械に頼らなければならないほど人間は落ちぶれてしまったのか。
機械など人を堕落させるばかりなのに。
ピリピリピリ…
色々いじっていたら急に携帯が鳴り出した。
画面には見知った男の名前。
「何だ」
取ると、向こうから声がする。
久しく聞いていなかった声だ。
こうして電話しているということは今も生きているのだろう。
そう思うとため息が出た。
『どうした?ため息なんかついて』
「いや、なんでもない」
『変なやつ』
笑い声がする。
誰かの声を聞いたのは久しぶりだと思った。
自分の城には使い魔しかいない。
誰かに会いに行こうと思えばいつでも行けたが誰に会いに行こうと考えると一人の顔しか浮かばなかった。
まあ、そんなこと本人に言うわけもないが。
押しかけてでも会いに行けばよかったのだろうが、それはなぜか躊躇われた。
迷惑?
そんなものを考えたこともないのに?
きっと行っていなかったらつまらないからだ。
そうに決まっている。
だから言ってやりなどしない。
早く言え。
『今度いつ会おうか』
にやりと口元が上がるのを感じた。