戦場


 銃弾の雨が降る。
 それは悲鳴や怒号を魂とともに空へ返し、彼らの血で、大地を朱に染めていく。

 こんなことは日常のことで、俺たちは何のためにこんなことをしているのか、もう分からなくなっていた。
 最初は、理想や信念、そんな綺麗なものがここに居 る全員にあったかもしれない。
 しかし、そんなものは生き残るためには必要ないことがすぐにわかった。ここにあるのは、そんな綺麗なものじゃない。
 人が人を殺す狂気しかここにはない。それがわからないのは、椅子にふんぞり返っているお偉いさん方だけだ。

 俺の銃から煙が出て、またひとつの命が消えた。
 殺らなければ殺られる。
 それが、ここでのたった一つのルール。
 だから、俺は生き残るために、命の火を消し続ける。

 銃を使わなかった戦友が言っていた。
 洗っても洗っても、血の匂いが取れないと。
 自分の手が紅く血に染まって見えてしまうと。
 まあ、その戦友も昨日、逝ったが。

 銃はいい。
 手が朱には染まらないから。
 硝煙の匂いも、煙草の煙に混ぜてしまえば分からない。
 少なくとも俺には。
 他の奴らがどう感じるかなんて知ったことではない。
 自分を誤魔化せれば、それで明日も戦える。

 そう、仕方なのないことだ、そんな暗示をかけて、自分を騙して、明日も、これからも、俺は戦場へ行く。
「なぜ?」
 なんてくだらないことを訊く奴がいるかもしれない。
 答えは簡単だ。
 そうでもしないと狂ってしまう。まあ、もう狂ってしまっているのかもしれないけれど。

 さて、行くとしよう。阿鼻叫喚のあの戦場へ。

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