シロとアカ
仕事を終わらせ外に出ると白いものが空から降ってきて大地を白く染めていた。
「これは…」
「? ルシファーは雪見たことないのか?」
隣にいたアウラが不思議そうに尋ねる。
「…ああ。魔界に雪が降ったのは初めてだからな」
そっと差し出した手の上にも雪は舞い降りて、溶けた。
「雪には触れられんぞ。それにとっては体温ですら熱すぎるんだ」
そう言ってアウラは笑ったが
俺には『穢れた者だから触れられない』のだと思えた。
雪は聖なる天使の羽の代用品から。
その証拠に、アウラには雪の白さがよく似合っている。
まるで元々一つのものであったかのように…
俺に、こんな綺麗な白は似合わない。
俺に似合うのは、きっと…
血のアカ。
「どうした?」
アウラが心配そうに俺の顔を覗き込む。
いつものように純粋で意志の強い大きな瞳で。
「いや。お前はよく雪が似合うなと思って…な」
「そうか?私はお前の方が似合っていると思うぞ」
「なぜだ?」
「お前は雪の中にいてもはっきりとお前だと分かるからな。」
俺は驚きのあまり目を見開いた。
白の中にあるアカは、確かにただ一点だけだったとしても目立つだろう。
それが良いのだと彼女は言う。
白の中にあるシロは分かりにくくて困るだろうと。
「そうか…」
やっと分かった。なぜ彼女が魔物たちに慕われ、愛されているのかが。
白の中のアカが目立つように、黒の中のシロは目立つのだ。
気になって皆、それに触れる。
そして知るのだ。
自分にはない彼女の純粋で儚い強さを
その強さに魅入られ、ますますアウラの元へ皆が集まっていく
「何が『そうか…』なんだ?」
不思議そうにアウラが尋ねる。
「……いや、なんでもない」
首を振って俺は後ろから彼女を抱きしめた。
「ル…ルシファー!? 何をする!?」
慌てて逃げようとする彼女をいっそう強く抱き、耳元で囁いてやる。
「俺に抱かれるのは嫌か?」
そうすれば、ほら…
おとなしくなった。
そして聞こえるのはか細い声。
「顔は…見るなよ…恥ずかしいからな」
「仰せのままに」
誰にも渡したくない。
生きるもの独特の体温を感じながら、そう思う。
本当は誰かの目に触れらることでさえ、嫌なのだけれど
きっと貴女はそんな言葉を聞き入れてはくれないから。
せめて、ずっと俺の目の届く所にいて。
貴女の望みを全て叶えるから。
だから…俺の前からいなくならないで。